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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)839号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長尾文治郎同長屋多門の上告理由第一点について。

論旨は、上告人に対する本件農地の買収処分が取り消されても、同農地の所有権が訴外沢田保一に帰属することの確認されない限り、本件と同様の買収処分が繰り返されないとは保障できないから、上告人の法的地位の不安は解消されないので本件確認判決を求める法律上の利益は存在するものというべく、従つて原審が右請求を不適法として排斥したことは違法であるというに帰する。

しかしながら、本件買収計画取消の訴において、本件農地が上告人の所有に属しないとの理由で右買収計画を取り消す旨の判決が確定したとすれば、農業委員会は再び右土地が上告人の所有に属するとの認定の下に買収計画を定めてはならない拘束を受けること、行政事件訴訟特例法一二条の規定により明らかであるから、論旨の主張する法的地位の不安を除くためには、右計画の取消を求める訴を提起すれば足り、そのほかに、上告人において本件目的地の所有権が第三者たる訴外沢田保一に帰属することについての確認を求める法律上の利益は全く存しない。されば、右と同趣旨に帰する原審の判断は正当であつて論旨は理由がない。

同第二点及び第四点について。

農地調整法四条が農地の所有権の移転は、当事者において都道府県知事の許可又は市町村農業委員会の承認を受けなければこれをなすことを得ず、右の許可又は承認を受けないでなした行為はその効力を生じないと規定したのは、農地に関する当事者の処分行為を同法一条に定める農地調整法制定の目的に適合させようとする必要に出たものであつて、右の必要は当事者のなす処分行為が契約であると単独行為であるとによつて異なるところはないのであるから、農地の所有者が単独行為たる特定遺贈によつてその農地を処分し所有権を移転した本件の場合においても都道府県知事の許可又は市町村農業委員会の承認を受けなければその効力を生じないこというまでもない。それ故、原判決の引用する第一審判決の判断は結局正当であり、原判決には所論のような違法はない。

同第三点について。

昭和二一年法律四二号による農地調整法の改正により、同法律施行の日(昭和二一年一一月二二日)以後における農地所有権の移転は、すべて改正後の同法四条の規定により知事の許可を要することとなつたのである。原審の認定するところによれば、訴外沢田保一が遺贈により本件農地の所有権を取得したのは、昭和二四年八月二八日であつたというのであるから、これにつき知事の許可を要することはもちろんであつて、この点に関する原審の判断は正当である。所論昭和二二年法律二四〇号附則二条は、農地調整法四条の改正によつて新たに「採草地又は放牧地」の所有権移転等についても知事の許可を要することとなつた際の経過規定であつて、農地そのものの所有権移転については、右附則二条は関係がないのである。されば論旨は、採草地又は放牧地の移動統制の経過規定たる前記附則二条の誤解によるものと認められ、原判決には所論のような違法はない。

よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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